| 婦人警官 四重奏 |
| Honky Tonk Policewomen |
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第004楽章 We wish you a Merry Christmas 「この若宮三丁目交番が、ずっとずっと素敵な交番でありつづけますように…かな？」 願い事が叶うとしたら、クリスマスの日、神様に何をお祈りするか、という話題になり、四人の婦警の中で、まず慶子が笑顔でそう答えた。 「わぁ…申し訳ない」 慶子の答に瑞枝が大げさに笑う。 「私は異性の事なんですよ。次こそは、以前よりもマシな恋愛ができますように…って」 それを聞いた茜が瑞枝に言う。 「いやいや、申し訳なくないですよ。それも大事なことじゃないですかぁ」 「あはは、そう言われればそうね。―で、茜の願い事は？」 と、慶子が笑顔のまま、瑞枝をフォローした茜を見る。 「んー。私はですね、婦警となったからにはタイホですよ、逮捕！―悪いヤツをですね、片っ端から捕まえられますように…って、神様にお祈りします」 茜の答に慶子が笑顔で頷く。 「おー、たくましいわねぇ」 慶子にそう言われ、茜は照れ笑いで、さらに話しつづける。 「―てへへへへへ。逮捕は神様へのお祈りで、サンタさんへのお願いは、また別にあるんですけどね…。あのですね…ニンテンドーのですね…」 「だーっ！―質問は『神様へのお祈り』だからね」 「ぅ！モゴモゴモゴ…」 瑞枝の掌が茜の口を塞いだので、茜の「サンタクロースへの願い事」は上手く聞き取れない。 「ねぇねぇ、ゆ・由香は何を神様にお祈りする？」 茜の口を押さえながら、焦るように瑞枝が由香に話題を振った。 「え、私？」 はにかんだ表情になった由香は、交番の天井を見上げる。 「―そうだなぁ」 そして、そう言って、交番の中の三人に視線を戻す。 「私の願い事は…仕事がもう少し暇になるといいな…ですね」 「へ？」 その答を聞いて、慶子が由香を見ながら苦笑した。 「ふふっ。由香の答にしては意外ね。でも、言い得てる。―由香も、結構、現実的なのね」 瑞枝も頷く。 「確かに、この歳末警戒の時期じゃなくても、私たちって、ちょい多忙すぎよねー」 茜もここぞとばかりに力強く言う。 「あの…にっ・ニンテンドーのですね…」 「らーッ！」 「モゴモゴ…」 そんな中、由香は三人をゆっくりと見回しながら微笑んだまま話す。 「―だって、私たち警察官の仕事って、本当は暇な方がいいじゃないですか…」 そう言った由香は、その瞳の中にある柔らかな光とともに皆を見た。 「若宮三丁目だけじゃなくって…世の中すべてが平穏無事だったら、警察官の仕事もちょっとだけ…楽になりますよね」 それを聞いた慶子と瑞枝と茜は、由香を静かに…そして、じっと見つめた。三人の視線の中心になってしまった由香は肩をすくめながらも、小さな小さな微笑で話しつづける。 「世界中が平和でありますように…警察官がいらないくらい平和でありますように…」 由香はそう言いながら、ゆっくりと瞳を閉じた。そして、静かに眼を開くと、その視線を、先ず慶子に移して照れ笑いをした。 「ダメ…ですかね？夢みたいなお祈り事で…しかも、私たち警察官がいらないように―だなんて」 慶子が由香に微笑んだ。 「―ん。いや…ダメじゃない。ゴメン。さっきは由香のお祈りが『現実的』だなんて言っちゃって」 そんな慶子の台詞に、瑞枝が首を横に軽く振る。 「―いや、慶子さん…いいんですよ。―由香の願いが少しでもいいから現実的に聞こえるようになった方がいいんですよ…」 そう言って俯いた瑞枝の口元から、ため息がひとつと、それにつづいて小声が漏れた。 「―多分、きっと」と。 そして、茜は迷っていた。―今ここでボケるべきか、黙っておくべきか。チラと上目づかいでツッコミ役の瑞枝を窺うと彼女の眼に灯った冷たい炎が「言うな」と雄弁に茜に釘をさしていた。 「ゥゥ・ウィ…ウィ…ウィッシュ・ユ・ア・メリ・クリス・マス…」 茜は口から漏れそうになっていた言葉をクリスマスソングで誤魔化しながらも、瑞枝の冷たい視線に耐え切れなくなり、交番の窓の外へと眼を逸らした。 ―そして眼に入った光景を見て、思わず叫んだ。 「あら？―ゆ・雪だー！」 「え！」 慶子も瑞枝も由香も、茜の声に驚いて若宮三丁目交番の外を見る。 ―深夜の闇の漆黒を背景に、白く輝く雪の結晶が、窓の外で舞っている。 ♪〜We wish you a Merry Christmas 若宮三丁目に、しんしんと降り積もる白い白い雪。 ♪〜We wish you a Merry Christmas―We wish you a Merry Christmas… - And a Happy New Year - |
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2006/12/21 |
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