婦人警官 屈辱 |
part 01 |
岬の顔色が蒼白なのは死への恐怖のせいではない。男性警察官たちの会話によって、自分が勤める警察署が―いや「警察」が、組織ぐるみで手を染めているであろう犯罪の輪郭を、おぼろげながらも感じつつあったからだ。 「―さて、と。」 署長の声とともに岬の顔を嬲っていた彼の靴先が、猿轡で塞がれた彼女の唇に移動する。岬はザラザラとした砂利の感触を、その唇に感じる。 「岬クン。君にはふたつの選択肢がある。―我々とともに警察官という職務をこれからも続けていくのか、それとも今日限りで、職務にピリオドを打つのか…」 署長は、そう言いながら、さらに強く靴底を岬の唇に押し付けた。 「ピリオドを打つ場合は、仕事に…だけとはいかなくなるがね。」 押し付けられた靴から顔を逸らそうともせず、敢えてそれに立ち向かうかのように口元を歪めながらも、岬は普段よりもきつい眼差しで署長の顔を見上げつづけていた。 「―そういう事か、…残念だな。我が県警はじまって以来の才媛と呼ばれる君の事だから、もっと賢い選択をしてくれるかと思っていたが…仕方あるまい。」 署長は、岬の顔面に押し付けた靴を静かに離すと、ゆっくりとソファから立ち上がろうとした。 ―と、同時に、岬の身体を弄んでいた男性警察官たちは、彼らの足を素早く引き戻し、署長が腰を上げるよりも早く、全員が立ち上がった。 白髪の春日警察署々長は、部下のその行動に対して、さして感嘆する様子もなく、警部の階級章を着けた警察官のひとりに向かってポツリと言った。 「三番アイアン。」 「はっ!」 声をかけられた中年の男性警察官は短く返事をし、署長室のドアの脇に立て掛けられたゴルフバッグに早足で近づくと、そのファスナーを開け、命じられた通りに三番アイアンを取り出してグリップの側を白髪の署長に差し出した。 署長はクラブを受け取ると両手でグリップを握り、別の警察官に話し掛けた。 「明日は大変だぞ。何しろ交通取締りに出た、うちの婦警二人の死体が発見されるんだからな…。早いうちに関係部署に話を通しておけよ。」 「ご安心を。シナリオは既に…。死体はうちではなく城東署管内で発見されます。」 それを聞いた署長は満足そうに頷いた。 「佐々木の所か。では安心だな。うちの署も、早々に内部を固めていかんとなぁ。でないと…」 署長は、ちらと岬を見下ろした。 「―このように、不幸な事件が起きる。」 ドカッ! 鈍い音を立てて臙脂色の絨毯の上、岬の鼻先わずか数センチの位置に、ゴルフクラブのヘッドが叩きつけられた。 岬は条件反射的に首をすくめ目を閉じた。そして、静かに瞳を開く。 彼女の目には、三番アイアンのヘッドは至近距離にありすぎて、鈍く銀色に輝く塊にしか映らなかった。 「猿轡を取れ。」 署長が命じる声が聞こえ、男性警察官のひとりが岬の背後に回り、それに従う。猿轡を解かれながら、岬は大声を上げる機会を窺っていた。 顔に巻かれた手拭状の生地が外され、口の中に入れられ唾液にまみれた布の固まりが吐き出された。 悲鳴を発しようと、岬は自由になった口を開き息を吸い込む。 ―その瞬間、彼女の口の中にゴルフクラブのヘッドが突然、挿入された。 「んぁっ!」 彼女の悲鳴は助けを求める大声ではなく、驚愕に対する小さなものになった。 その声を聞いて、春日署々長は岬に言った。 「警察官ともあろう者が、突発的な出来事に動揺してはいかん。―なぁ、そうだろう、岬クン。」 彼女の口の中で、ゴルフクラブがゆっくりと回転し、岬の美しい顔は、今、その左頬がゴルフヘッドの形に醜く膨らんでいた。 手足をロープで縛られた彼女は自らに降りかかる災厄になす術もなく、芋虫のようにその身体をくねらせながら耐えるほかはなかった。 -つづく- |
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