婦人警官 屈辱 |
part 04 |
「ははははは。いい格好だな、岬クン。いや、実にいい格好だ。」 部屋に春日署々長の声が響く。 岬は床に仰向けとなり、後頭部と両膝とつま先だけで身体を支えていた。署長は、岬の口の中に挿し込まれ、天井に向かってほぼ垂直の状態にあった三番アイアンのグリップを鮫島の方に向かって押し出すように放った。 「あとはお前たちでやれ。よい運動をした。私はゆっくり見物させてもらう。」 春日署々長はそう言うと、岬の周囲に立っている男性警官のひとりを見て、顎で後方の一人掛けソファ示した。その警官は、隣に立つもう一人の警官とともに、署長が示したソファを素早く彼のすぐ後ろに運んだ。春日署々長は、一歩も動くことなく、そのまま腰を下ろしソファに座った。 署長から三番アイアンを受け取った鮫島は、暫くクラブヘッドを小さく回転させ、岬の口の中を弄んだ。岬の喉はカラカラに渇いていたが、ゴルフクラブのせいで、唾液は口の中に溢れるように溜まりつづけた。―そして、ついにその唾液は、彼女の唇の端から頬を伝い耳の横を通り、一筋の線となって床に達した。 鮫島は、ゴルフクラブを静かに彼女の口から抜き、その先端で岬の頬をピタピタと軽く叩いた。つづいて、岬の柔らかな頬の上に、クラブフェースに付着した彼女の唾液を塗り付けるように、ゆっくりと円を描くようにクラブヘッドを動かしはじめた。 ぬるり。 自分自身の唾液の感触に不快感が走る。―が、それも長く続かない。 クラブは頬から首筋へと移動し、さらに肩を通って、岬の胸の膨らみへと達した。その頂点で一旦、停止したゴルフクラブは、今度は横方向に移動しはじめ、岬の制服の襟元から上着の内部に侵入しはじめた。 「う…」 今まで歯を食いしばって無言で耐えていた岬が、喉の奥で小さな呻き声をあげる。その声を聞いた鮫島は、制服の上着とシャツの隙間から差し入れられたクラブヘッドで柔らかな岬の胸を押さえつけながら、唇の端を歪めるように笑って言った。 「岬…君のような気の強い女でも、胸を責められると声があがるのか。―ん?」 岬の発した声は嬌声の類ではなかった。 ―が、胸を触られる事は、彼女に「性行為」のイメージを連想させていた。それは、これまでのゴルフクラブによる「暴力」とはまた別のイメージがあった。 暴力に対する覚悟とは別の覚悟が必要だと思った。 そして、ただただ暴力的に傷つけられるだけで全ての終わりが訪れたなら、どんなにか楽だろうというネガティブな思いが岬の心の隅に微かに芽生えていた。 鮫島が岬の顔を見下ろしながら、声を出さずに表情だけで笑っている。 岬が見上げる彼の顔は、ブリッジの体勢のせいで天地が逆になっている。室内の明かりは署長のディスクの電気スタンドだけしか灯されていないため、岬は鮫島の表情の詳細を伺うことはできない。だが、彼の輪郭の中、薄明かりに紛れた表情を、岬は、なぜか容易に想像できた。 その笑みは、かつての岬がよく見た表情だ。 生活安全課時代。 覚醒剤の取り引きに絡む張り込みの現場で―。暴力団同士の諍い直後の現場で―。 なぜこんな時に、この人の顔には笑いが浮かぶのか? 岬は鮫島に対し何度かそう思った経験がある。岬にとってその笑いは、鮫島が「思惑通り」と考えているような笑いに映った。そして、その笑いのせいで、岬は、彼を上司として一切信用しなかった。 今、わずかに照明の当たった鮫島の暗い顔の上に、彼の黒い噂に似つかわしくない白い歯がチラリと見えた。そして、ワイシャツの上から岬の柔らかな胸を押さえ込んでいたクラブヘッドの先端は、新たにまた移動しはじめた。 三番アイアンは、上着とシャツの間から再び外に出てネクタイの位置まで戻ると、シャフトとヘッドを繋ぐ折れた部分に岬のネクタイ引っ掛け、ゆっくりと持ち上げた。ネクタイの先端が上着の内側から顔を見せる。鮫島は器用にクラブを操りながら、上着から抜かれたネクタイの先を岬の制服の肩の位置へと導く。 ふぁさ、と耳に聞こえない音を立ててネクタイの先が岬の肩の上に落ちた。 岬は、また薄暗い鮫島の顔に白い歯を見た気がした。 しかし、それを確認する余裕はなかった。クラブの先端は、ネクタイが取られ無防備になったシャツの第二ボタンと第三ボタンの間からの侵入を試みはじめたのだ。 -つづく- |