婦人官 屈
  part 07


 搾乳器を手にした鮫島は、岬の傍らにしゃがみ込んだ。そして襟元が乱れ大きく開いた彼女の上着の一番上、金色のボタンに手をかけた。

「この制服っていうのはあれだな…、昔のやつと違って、襟元が随分と開いているよなぁ。今の制服に変わったばかりの頃、デザインを意外に思った覚えがある。部下の婦警が現場で危ない目に遭うんじゃないかと心配したもんだ。」

 冗談とも本気とも取れない口調で、淡々とそう言いながら、鮫島は、岬の上着の第一ボタンを外した。

「まさか、今、自分の手で、その制服のボタンをこうやって外すとはなぁ…。」

 自嘲的にそう言った彼は、岬の顔を覗き込んだ。岬はその視線に臆することなく鮫島の醒めた瞳を強く睨み返した。
 ―が、彼女の視線の鋭さも全く堪えない様子で、鮫島は、岬に話しつづける。

「可笑しいだろう、岬よ…。なぁ、可笑しいよなぁ。」

 鮫島は、岬に問いかけながら、右の掌でゆっくりと彼女の乳房を包んだ。鮫島の体温は冷たかった。鮫島の掌の冷たさのせいなのか、それとも乳房を触られたせいなのか、岬の身体がピクリと小さく震えた。

「さ…触らないで!」

 岬の上げた声は喉の奥で何かに引っ掛かっかったように篭って聞こえた。鮫島はその声に答えることなく、同じ言葉をもう一度繰り返した。

「可笑しいだろう、な、岬よ。」

 岬は、鮫島の問いかけに対して答える術を何も持たなかった。岬の乳房を包んだ鮫島の掌が小さく動いた。その掌に、突然、力が加わり、彼は岬の胸を鷲掴みにした。そして同時に鮫島は、乳房を覆った右手の人差し指と中指の関節部分で乳首を強く挟んだ。

「あ!」

 思わず声が漏れた。漏れたのは声だけではなかった。岬の乳首の先から、小量の白い液体が、押し出されるように飛び出し宙を舞った。
 恥辱の感情が、岬の体温をわずかに上昇させた。しかし、鮫島はそれに構う事もなく、岬の胸を強く握りつづけながら、今度はやや強い語調で彼女に語りかける。

「可笑しいだろう、と訊いてるじゃないか。答えろよ、岬!」

 鮫島に乳房を強く揉まれ、まるで堰を切ったように、岬の乳首から勢いよく噴き出しつづけはじめた母乳は、署長室の臙脂色の絨毯に落ち、赤黒い染みをつくる。その液体の一部は、鮫島の手の甲をも濡らし、彼の指の間から、掌と岬の乳房のあいだの狭い隙間にも静かに侵食してきた。
 生温かくべったりとした不快な感触が岬の胸の皮膚に拡がる。今、岬は、自分の体内から出たその白くてぬるい液体が、自らの上気した体温によって、仄かに熱を帯びたように感じている。

「も、もぅやめて!」

 毅然と叫んでみたつもりだか、岬のその声は、喉の奥からやっと絞り出されたような弱々しい響きしか持っていなかった。失禁の際の羞恥心に似た感覚が岬を襲っていた。
 だが鮫島はそれでも乳房を揉みしだく手の力を緩めようとはしない。

「岬、ダメだ、答になっていない。―まったく答になっていないよ。…俺は、可笑しいだろうと…訊いているんだよ。」

 鮫島はその手にゆっくりと力を加え、その手はさらに岬の乳房を捻りはじめた。岬の胸部にある豊満な肉の塊は、その先端の突起から母乳を噴出させながら、醜い形に歪んでいく。

「こっ…こんな事をされて…可笑しいなんて言えるわけがないでしょう!」

 必死の思いで岬は鮫島を睨みつけながら、乾いた擦れた声で彼に答える。その声を聞いた鮫島は、岬に向かって満足そうに微笑み、彼女の乳房を握っていた右手の力を軽く緩めた。鮫島の掌の中で捻られていた岬の乳房は、それ自身の弾力で元の形を取り戻そうとした。
 乳房の皮膚と鮫島の掌の間に流れ込んだ岬の母乳が、まるで潤滑剤のように摩擦もなく乳房の形状の復元を助けた。その時、岬は、聞こえるはずのない「ぬるり」という音を聞いた気がした。

「そうだよ、岬。最初からそうやってちゃんと質問に答えればいいんだよ…」

 鮫島の語調が、乳房を掴んでいた彼の掌と同様に柔らかくなった。だが、彼は、その緩めた手の親指と中指で岬の乳首を摘むと、今度は強く引っ張っりはじめた。

「…ん!んんぅ!」

 反射的に岬の喉から声が出た。―が、鮫島は、その声に構うことなく、指先で摘み上げたやや褐色がかった紅色の突起物を弄びつづける。その間中、岬の乳首の先端から吐き出されつづける乳白色の液体は、ある時は遠くに、またある時は鮫島の手に、そして岬自身の制服にと、不規則にその飛沫を広げていった。

「ハハッ、止まらないものなんだなぁ…ハハハハハ。」

 何か滑稽な出来事を目にしているかのように鮫島が声を出して笑いはじめ、岬の乳首を摘んだ指先を離した。そして、母乳で濡れた彼の手を拭うかのように、岬の頬になすりつけた。

「さて…」

 岬の両頬を掴みながら鮫島は言った。

「もう一方の胸からも同じ位の量が出るんだろうなぁ…ふふふふ。」

 頬から離れた彼の手は、もう片方の手にあった先ほどの搾乳器の瓶の部分を、支えるように持った。そして彼は、岬の顔に搾乳器を近づけるとポンプの部分を数回繰り返して押した。

 シュバッ、シュバッ、シュバッ!

 漏斗型のプラスティック部分から漏れてる微かなエアが、不気味な音を響かせながら、岬の頬を打つ。


  -つづく-


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