婦人警官 屈辱 |
part 08 |
ブルッ! 岬の身体が小さく震えた。彼女の乳房の傾斜を覆うように被せられた搾乳器の漏斗部分は、ひんやりと冷たかった。 鮫島という他人によって被せられたためか、そのプラスティックの器具が乳房にあてがわれた角度は、岬自身が毎日慣れているそれとは微妙に異なり、その事が岬に違和感を与える。そして、その違和感は、徐々に岬の怯えを増幅していった。 岬の顔色が次第に蒼白くなっていく様子を見た鮫島が、彼女に話し掛けた。 「岬、顔色が悪いぞ。大丈夫か?―だが、安心しろ。その青い顔も、羞恥ですぐに赤く染まる。」 鮫島は、右手に握ったゴム状のポンプ部分を、親指、人差し指、そして中指の三本の指で、ゆっくりと押さえていった。乳房とプラスティックカバーの隙間から空気が漏れ、まるで放屁のような下品な音が鳴り、その音は鮫島を苦笑させた。―が、鮫島の唇の端が苦笑いに歪んだのも一瞬の出来事で、彼は、躊躇うことなく、先ほどの三本の指に込めた力を緩めた。 ズッ! 岬の乳房の中に貯まった母乳が強制的に吸い上げられ、小量の乳白色の液体が搾乳器の瓶の底に向かって流入していった。 「ふふ。」 瓶の底の母乳を一瞥した鮫島が、小さく笑った。その笑みは、先ほど見せた苦笑いとは違い、なにか自信に満ちた様子とともにあった。そして、鮫島は口の中に残った微笑みのかけらを吐き出すかのように、再び軽く笑ったが、今度の笑いは自嘲のため息の様にも見えた。 一度目の母乳吸引の後、鮫島はリズミカルにポンプを押しつづけた。 ズッ、ズッ、ズッ、ズッ…。 彼の手元のリズムに合わせるかのように、しんとした署長室の中に搾乳器から漏れる音が小さく響く。岬には、それがどこから響いてくる音なのか判然としなかった。音源が不明なため、彼女には、その音を発しているのが自分の乳首の先端であるかのように思えてきて仕方がなかった。 乳腺内部を一定の速度で流れる母乳の感触は、彼女の乳首を内側から刺激しつづけていた。 今、岬には、自分の乳首が通常の状態よりも大きく膨らみ、天井に向かって屹立しているという確かな認識があった。 「ふふふ、俺が言った通りだろう…。さっきまで青かったお前の顔が、いまや真っ赤だ。」 鮫島が、自分の予言が当たった事に満足そうな様子で、岬に話し掛けた。岬の頬は恥かしさのために紅潮していた。その紅潮は、岬に、体温の上昇という肉体的な変化を自覚させる事で、さらに彼女の羞恥心を煽っていた。 岬自身、自分の耳までもが燃えるように熱くなっている事実を覚えながらも、それを抑える方法を見出す事ができず、頬や耳だけでなく、鮫島によってはだけられた胸元の肌さえも、薄桃色から紅色に、次第に変化させていた。 だか、そんな岬の体の火照りもまったく意に介することなく、搾乳は冷静沈着に一定のリズムを崩すことなく着々と進行していく。 すでに岬は、鮫島の目を見据え睨む事ができなくなっていた。彼女は鮫島の声のする方向に赤く染まった頬の片側を向け、彼から目を逸らし、しかも、その目を硬く閉じていた。 だが、闇の向こうで一定の旋律を奏でる搾乳の音を、そして、乳首の内側をほとばしるように流れる液体の細い細い―それ故に過度な刺激を、そして、鮫島が発する声までを、岬は遮る事ができない。 「ふふ、岬よ。怒った顔もいいが、お前の恥じらいに染まる顔というのもいいものだな。ふふふ。」 その声とともに乳首への刺激が治まった。搾乳器の凸状プラスティックが乳房からゆっくりと離されていく。 「見るか?岬。」 目を閉じた先の闇。その闇の中央でチャプチャプと容器の中で液体が揺れる音がした。搾乳器の瓶が眼前にある―そう思い、岬はさらに固く瞳を閉じる。 すると、突然、岬の後頭部の髪が強い力で掴まれ、鮫島の大声が部屋に響いた。 「岬よぉ!俺が『見るか?』って聞いた時は、『見ろ!』って意味なんだよ!」 髪を引っ張られ、岬の顔が天井に向けられた。 「そう教えてきただろう。な。」 彼の声と髪を掴んだ手の力が柔らかくなった。 ―よく解っているつもりだった。岬は。鮫島の戦略を。怒りを込めた声の後に発せられる彼の声には甘さがある。まるで催眠術のように、多くの者を言いなりにしてしまう甘さだ。鮫島自身も、充分それを自覚しているように、岬には見えていた。 同じ課内に勤務してた頃、部下を動かすためにその罵声につづく甘い声を使う鮫島の姿を何度も見た。自分は、そんな彼の策には乗せられるまいと心の隅で自分に言い聞かせてきた。―が、鮫島が彼女に、その声音をもって何かを命じるということは一度も無かった。―今、この瞬間までは。 まず、ぼんやりとした視覚の中央に白い物体があった。岬は、なぜかその目を開いてしまった。自分の体内から吸いだされた液体が瓶の半分以上を満たしていた。 満足そうに微笑む鮫島が、さらに岬に問う。 「飲むか?岬。」 -つづく- |
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