婦人警官 屈辱 |
part 09 |
「なぁ、飲んでみないか?岬。」 鮫島が笑って言った。その言葉を掛けられて、はじめて岬は、今まで催眠術にかかったように搾乳器に釘付けにされていた瞳をそらす事ができた。岬が我にかえり瓶に溜まった自らの母乳から目をそらしたのは、鮫島の計算のうちなのかどうか…今の岬には、その判断を下す余裕がない。ただ、彼女にできることは「飲むか?」―即ち「飲め。」という鮫島の言葉に対して、彼から顔をそむけ、上下の唇をきつく噛みしめ固く閉ざすだけだった。 彼女の髪を掴んでいた鮫島の手に再び力が入った。 「なんだ、飲みたくないのか、岬。」 そう言いながら、彼の手に徐々に力が入り、岬の顔がゆっくりと天井に向けられる。 「お前のガキは、好き嫌いしないで、毎日飲んでいるんだろう…」 今度の鮫島の手には先程までの乱暴さはない。彼は岬の顔を上方に向かせたままにし、自らが身を乗り出して岬の顔を覗き込んでいた。 「母親が好き嫌いをするのは、好ましくない。―だろう、岬よ。」 口調は優しかった。だが、それは、岬の行動を誘導するように計算された優しさではなかった。岬は、その唇を閉ざしつづけながらも、鮫島の余裕に満ちた語調に別の不安を感じていた。 「素直に飲めば、俺もこういう事はしなくてもよいのだがな…」 鮫島はそう言って、岬の髪から手を離し、その手で搾乳器上部の蓋を開けた。 頭部が自由になったものの、岬は、鮫島の言った「こういう事」が引っ掛かったのか彼の手の動きから眼をそらす事ができなかった。 蓋には乳房を覆うための碗型のプラスティック部品とポンプが付いている。洗浄の時のために各々の部品が分解できるようになっているのだろう。鮫島は、器用な手つきでその蓋からプラスティックの部分だけを分離させた。彼は右手に搾乳器の瓶と蓋を左手に漏斗状の部品を持ち、その左手を岬の顔に近づけていった。 「口を開かないなら、仕方がない…」 「?!」 鮫島の手が獲物を狩る動物のように、突然、敏捷になった。 掌で口を覆われた……岬は瞬間そう思った、が…違った。 漏斗状のプラスティク部品は真横から見るとY字型をしている。その足にあたる垂直部分―つまり細い円筒の管の部分が、岬の右側の鼻腔に差し入れられていた。 「ん!」 思わず声が漏れそうになったがその口は鮫島の手が被さるように覆っている。 「俺の『飲むか?』は『飲め』だろうがぁ…知っているのに頑なに拒否するからこうなるんだよ。俺が、望んだことは必ず実行するっていう性格だと解ってるだろうに。」 先ほど吸引された母乳の通り道となった管は、岬の美しい鼻の形状をわずかに押し広げるように崩している。岬の鼻の内部から口の中へと、文字通り「乳臭い」匂いが通過していった。その匂いはいつも授乳の際にほのかに感じているはずだったが、直接、鼻の内側に匂いの源があるせいか、強烈に不快な感覚を伴いながら彼女を襲った。 だが、彼女を襲うものは、もちろん匂いだけではない。 岬の鼻の穴の出入り口に、管と接した円錐状の頂点を置き、天井に向いた面のない底面へと透明プラスティックの裾野が伸びる。その面のない底面が漏斗の入口だ。鮫島がそこに向かって静かに、母乳が溜まった搾乳器の瓶を近付けていく。 たらり。 まず小量の母乳がプラスティックの入口から垂らされた。ツンと鼻腔の奥に刺激が走る。その刺激は鼻で感じながらも後頭部を打つ痛みを伴っていた。 「グェホ!」 気管に流入した異物を排除するように大きく咳込む岬の顔を、鮫島はその掌で強く押さえ込んだ。 「暴れるなよ。鼻に管を差してんだ。鼻血、出しちまうぞ。ふふふ。」 その言葉につづく彼の行動には遠慮がなかった。鮫島は手にした瓶を大きく傾けると、その中の白い液体をどくどくと漏斗の受け口へと一気に注ぎ込んだ。 「ブハッ!」 岬の体は反射的に海老のように丸まろうとした―が、手首と足首は拘束されていた。手錠は手首に、ロープは足首に、それぞれ深く食い込んだが、岬はその痛みを感じない。軽いパニックが岬を混乱させていた。 「ゲッ…ゲェッグェェッ…」 プラスティックの漏斗は床に転がり、その横で岬が激しくむせ返っている。 瞳は赤く染まり、涙が浮かんでいる。右の鼻腔を中心に放射状に広がるように母乳がべったりと顔面を覆う。口元からは白い色の混じった粘液に近い唾液が糸を引いて臙脂色の絨毯に垂れている。 口の中に砂が入ったような感覚がある。それが母乳のせいなのかは解らない。喉が非常に渇いていた。身体が熱い。 その熱い身体の一部にひんやりとした何かが触れた。ぴくりと身体が反応した。そこは乱れたスカートの裾で辛うじて隠された太腿の内側だった。触れたものは……それを確かめようと岬の瞳が動いた。 視界に白髪の男が入った。 その男、春日署々長は右手で岬の腿を掴んだまま、身体を岬の上半身に覆い被せてきた。まず署長は舌を出し岬の顔面に付着した母乳の飛沫をべろりと舐めあげた。 「あとはごゆっくり…」 鮫島がポケットから煙草を取り出し、ライターを差し出そうとする警察官を掌で押しとどめ、自分の手で火を点けた。 署長室に拡散していく、その煙草の匂いを岬は感じない。 岬の嗅覚にはすえた黴臭い老人特有の匂いだけが強烈な勢いで流れ込んできていた。 -つづく- |
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