婦人警官 屈辱 |
part 11 |
春日署々長の指先は、ストッキングの繊維を引っ掛けたまま、ショートガードルの中から外に出て、プツプツという音を伴いながら、岬の左太腿のなだらかな曲面をなぞり、膝頭の横まで移動した。その移動の軌跡は、細長い楕円状の裂け目となり、そこから岬の太腿の一部が、まるでコップに満たされた水面上部が表面張力でなだらかなカーブを描くが如く露出していた。 署長の手は、そのまま彼女の膝を握り、岬の脚を強い力で外側へと向けて押し広げる。「く」の字型に曲げられた脚の反対側の右膝は署長の足で動かぬように固定されている。 岬が開かれた脚を閉じようと必死で身体を捻っていると、一瞬、彼女の右膝を押さえていた署長の足の力が緩んだ。岬の右膝が床から浮いた瞬間、署長の左手が、掬い上げるように、そこを掴む。 「んぁ!」 岬の目に映っていた光景が180度、回転した。 彼女の視界は絨毯の臙脂色で満たされた。 春日署々長によってうつ伏せにされた岬は、はだけた胸部に絨毯の毛並みを感じる。 以前、この部屋を訪れた時、滅多に入ることのなかった署長室の床を歩いた感触を同僚の婦警たちに、半ばジョークのように話したことを思い出す。 「それがすごいのよ。ふかふかしてて…」 「思わず転びそうになった…とか。」 「まさか!でも、一歩、間違えると捻挫しゃうかもよ、ふふ…。」 「マジですかぁ?」 ―マジですかぁ、か…と岬は微笑の表情を崩すことなく瞳だけを曇らせる。そういう言葉を目上に対して臆面もなく使ってしまう世代よね、と。高校を卒業して婦警になった今年やっと二十歳になる後輩の発言だった。 今度は、別の後輩、鳥越恵が岬に話しかける。 「署長室がそんなだったら、本部長室の絨毯は、もっとすごいんでしょうね。」 本部長室に入ったことのない岬は、恵のその言葉を聞いて、足首まで埋まるような絨毯を想像し、その滑稽さに思わず吹き出した。岬のリアクションが意外なように鳥越恵はキョトンとして言う。 「あれ?私、何かおかしな事、言いました?」 なぜ、こんな時に、そんな微笑ましい出来事が頭に浮かぶのだろう。今まで思い出すことすらなかったのに…。 だが、岬の回想は、背中の痛みによって中断する。 彼女の背に回されている手錠とロープで拘束された手首・足首を、署長がその掌に全体重を乗せるようにして押さえつけていた。 胸に当たる絨毯の毛並みは「ふかふか」どころではなく、痛痒感を伴う刺々しさで岬を襲う。 そして署長の両手は、うつ伏せにされた岬の膝頭を掴み、大きく左右に開いた。スカートの裾がピンと張る。署長は岬の両膝を握ったまま、彼女の下半身をゆっくりと持ち上げ始めた。岬の背中が大きく反っていくにつれて、柔らかな乳房は彼女自身の体重で圧迫を受け、形を変え床に押しつけられる。 「はははは…、いい眺めだよ、岬クン。」 署長の笑い声が静かな部屋に響きわたる。彼の目線の先、不定形に乱れたスカートの裾がかたどる輪郭の奥には、下着に包まれた岬の下半身が無防備に晒されている。 乳房を露出された時の羞恥心とは異なる感覚が岬を襲う。肉体を蹂躙されることなく視線によってのみ犯される感覚。その屈辱感は、肉体的な痛みがない分、岬の精神を男の視線が直接に突き刺し、そして貫く痛さを伴っていた。 くくくくく、と喉の奥で笑いながら、署長は両手に持った岬の膝をゆっくりと持ち上げはじめた。絨毯に密着し身体を支えていた部分の面積がだんだんと狭くなる。大きく反らされた彼女の上半身は、今や胸部で上半身を支えている。 顔面は、足が持ち上がるにつれ、絨毯に強く押し付けられ息苦しくなる。無意識に顔が横を向き、「ハァ」と大きな呼吸音が口から漏れた。水泳の息継ぎのようだった。 春日署々長は岬の左右の太腿を彼自身の両肩にそれぞれ乗せて、彼女の不安定な体制が崩れないようにして、その膝から彼の手を離した。その手は外側から廻り込みながら太腿の上を滑っていく。署長の両手は、膝上20センチにまで捲くれたスカートの内部に潜り込み、下着の上から岬の臀部を強い力で握り、揉みしだきはじめた。 岬のヒップラインに沿って描かれていたスカートの美しい円弧が、署長の手の形に醜く盛り上がっている。紺色の制服の生地に浮かんだ隆起部分は、久しぶりの食事にありついた野生動物が獲物の肉を貪り喰う如く、臀部の左右の丘を強調しながら執拗に蠢きつづける。 顔を苦悶に歪めた岬の目の前に細長い物体が差し出された。薄明かりにぼんやりと照らされたその物体が何か、急には解らなかった。ただ、それを持っているのが鮫島であろうという事だけが想像できた。―予想通り、岬の耳に鮫島の声が聞こえてくる。 「どうせ死ぬなら、気持ちよく死のうや、な、岬。」 その声を聴きながら、次第に目の前の物体に焦点が合っていく。 「どうせやられるなら、気持ちよくやられてみろよ。―最後のセックスだ。」 その物体の色はピンクだが、人の肌に近いピンク色ではない。淡く施された薄紅の色彩が、その物体が化学樹脂でできていることを予感させ、却って毒々しさを感じさせる。 ―いや、岬が、毒々しさを感じたのは色のせいではなかった。その物体の形状は勃起したペニスそのものだった。 パチ、と短い音がした。そして唸るようなモーターの音。岬の目の前にある桃色の人造男性器は根元を支点に回転を始めた。そして再度、パチ、という音。モーターの唸りが細かく連続的なものに変わり、物体の動きも、音に合わせるように、回転から振動へと変わった。 「レイプじゃ濡れないだろ。」 鮫島は微振動をつづけるバイブレータを岬の頬に当てた。 「濡れないと痛いだろ。」 パチ。―頬の上の震えが停止した。そのペニスは勃起しているというのに、肌に冷たい。 「でも、こいつを唾液で濡らしておくと、痛みは少なくなるぞ。心も身体もボロボロになってお前は死んでいくんだ。―だから、せめて…」 ―せめて? 「お前の痛みを減らしたい。」 だが、鮫島は手にしたバイブレータを岬の口に無理やり捻じ込もうとはしなかった。 「あとは、お前が決めろ、岬。」 振動をやめたバイブレータが、そっと岬の口の前に差し出される。 -つづく- |
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