婦人官 屈
  part 17


 強引に立たされた岬の姿は不安定で、そして、危うげだ。
 彼女の性器の奥をかき回すバイブレータの刺激を抑えようとする岬の姿勢は、両脚を「く」の字に曲げた内股の格好となり、腰は後方に引けてしまっている。靴の爪先は絨毯の上を落ち着きなく、不規則に、そして小刻みに動いている。
 腰のスカートも気になっていた。すでにホックとファスナーが外されていたそれは、そのまま床にずり落ちてしまう寸前だった。岬は、手錠で背後に固定された両手でその落下を必死に食い止めていた。

「なんて格好だい、岬。まるでトイレに行くのを我慢してるみたいじゃないか…ふふふ」

 鮫島が岬を見ながら嘲笑の言葉を投げるが、今の岬には自分の姿勢を正すことは出来ない。
 鮫島の顔を厳しい視線で睨みつけていた岬であったが、それも長くは続かなかった。一定の姿勢を維持するのが辛く苦しい。時折、うなだれる様に頭を落とし、何かを強く否定するように首を左右に振り、また顔を上げ、肉体を内部から襲うバイブレータの運動を断ち切ろうと強く下唇を噛んで鮫島を睨む。
 突然、春日署々長が、後ろから岬の腰を抱くように手を回してきた。

「!」

 岬の声にならない悲鳴を無視し、腰に回された腕に力が加わり、岬の下半身は、背後の春日署々長の下半身に密着させられた。  衣服の生地を通して、岬は臀部にもうひとつの陰茎の存在を感じる。その陰茎は、彼女の内部を撹拌しつづけているバイブレータのような人造の物ではなく、血が通った人間のものだ。背後から感じる春日署々長の耳元への荒々しい呼吸が、彼のペニスを、文字通り「脈打つ」ように感じさせる。
 春日署々長のペニスは既に硬く怒張していた。

「岬君、私のモノを受け入れる準備を整えてもらおう。」

 署長はそう言うと、スカートの腰周り部分を持つ岬の両手を握ると、その指を解きはじめた。岬の細い指が、抵抗空しく、一本一本順番にほどかれていく。最後の一本、L字形に折れた右手中指の先に辛うじてスカートが引っかかっている状態になった頃、岬に密着していた署長の下半身は、既に、彼女の腰から離れていた。
 春日署々長は、最後に残した岬の指だけは力ずくで伸ばそうとはしなかった。彼は、スカートがわずか一点で宙に支えられている状態を楽しむかのように、掴んだ彼女の掌をゆっくりと上下に揺らした。紺色のスカートは、指先を二・三度、揺すられただけで、岬の指先を離れた。

「!」

 岬は今まで閉じていた両脚を開いてスカートの落下を食い止めた。生地が左右にピンと張る。

「ふふふ。頑張れ岬。いい格好だ。」

 壁に凭れて腕組みをしながら、岬と署長の様子を見ていた鮫島が揶揄する。

「―ならば、こうだ。」

 春日署々長はそう言うと、開いた岬の両膝の間からスカートの裾を掬い上げるようにして彼の膝頭を割り入れた。スカートとスリップが一気に太腿の上まで捲くれた。署長の膝はそのまま静かに上昇し、岬の股間に埋まったバイブレータの底面に触れた。バイブレータが、また、ほんの数センチ岬の体内に埋没する。

「う!」

 バイブレータが齎す肉体への刺激を抑えるため、岬は再び左右の膝を密着させようとしたが、両腿の間にある署長の膝頭のせいで、足を完全に閉じる事が出来ない。ストッキングは膝まで下ろされたままで、太腿の肌が、署長の足に直接触れている。
 ―岬は驚愕した。
 岬の肌の表面が感じたその感触は、署長が履いている筈のズボンの感触ではなかった。春日署々長は既にズボンを脱いでいた。

「ふふ。太腿の感触もいいもんだな…もっと強く挟んでもらってもいいんだぞ。」

 今、全てが男たちに楽しまれていた。
 署長の言葉に足を緩めると、彼は膝を使って、岬の股間に挿入された蠢く擬似ペニスを奥へと押し上げる。それに抵抗しようと足を閉じると、膝から下を岬の脚に絡めてくる。
 岬の戸惑いが隙を作る。
 春日署々長が、股間のバイブレータを激しい勢いで蹴り上げた。

「アァッ!」

 岬の身体の中心を電流が走る。
 ガッ!ガッ!―その蹴りは断続的に何度も続いた。
 これまで、肉体内部に挿し入れられたバイブレータは、軟体動物の不気味さで岬を弄っていたが、今、岬の体内に打ち込まれる一本の杭と化して彼女を襲っている。バイブレータの亀頭の先端が身体を貫き、脳にまで達するような錯覚があった。
 その苦しみに思わず上半身が沈む。だが、春日署々長はそれを許さず、岬の髪を掴み彼女の背中を強い力で押した。

「!」

 背中を押されたはずみで、制服のスカートが床の上に落下した。岬は、床に落ちたスカートをその場に残し、前方に二・三歩よろけた。膝まで下ろされていたストッキングが絡まり転倒しそうになる。そして、覚束ない足取りとなって進んだ岬の体は署長用の大きなデスクに阻まれた。

「これからだぞ、岬。根を上げるのは、まだまだ早い。」

 春日署々長はそう言いながら岬の上体を机の上に押し付けた。

「う!」

 岬の頬がベタリと机上に密着する。署長は背後から岬の腰に回した腕に力を入れ彼女の臀部を引き寄せ、スカートが脱げた岬の下半身を辛うじて隠していた薄手のスリップを捲り上げた。そして、膝に絡まるように残ったストッキングに靴を乗せ、一気に床まで足を踏み下ろす。
 既に幾筋もの裂け目が入っていたストッキングを岬のくるぶしまで下ろした署長の足は、ガードルとショーツの中にあるバイブレータの底面を目がけ上昇し、そのプラスティックのペニスを更に深く埋没させるように岬の股間を圧す。

「ん・ぐ!」

 署長の足が股間に加える振動に、岬は歯を食いしばって耐えながら、薄目を開けると、視界の隅に人の気配があった。
 鮫島が、いつの間にか、署長用デスクの椅子に腰掛けていた。

「岬、これから、お前の味わう絶望はこんなモンじゃない。―でも、安心しろ…」

 鮫島が岬の顔を覗き込む。

「お前が感じる絶望は、同時に俺の絶望でもある。」

 鮫島の顔に微笑が浮かぶ。

「その絶望を俺も味わうことで、俺は、躊躇なくお前を殺せるようになる。」

 その鮫島の笑みに、感情はない。


  -つづく-


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