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第四部


 17. 着信

  広田京子に下着を贈った翌日の日曜日は、彼女とわざと連絡をとらないようにしていた。
  そうする事で、彼女は、一日中、不安に怯えながら過ごす事になるだろうと思ったからだ。

  夜、自分の部屋で、ちょっと遅めの夕食を済ませ、洗い物をしながら、彼女を食事に誘うのも悪くはない、などと空想していた。
  構えは小さいけれど、味に関しては評判の地魚料理の店がある。
  その店のカウンターに、僕と広田京子が並んで座っている。
  その光景を思い描きながら、ふと、彼女は、刺身は嫌いではないだろうか、飲み物は何が好みなのだろうか、などと考え始めていた。

  僕は彼女の事を知っているようで何も知らない。

  しかも、その空想の中で、広田京子は婦人警官の制服を着て、制帽をカウンターの上に置き、僕の隣に座っていた。
  いくらなんでも、婦警の制服姿で食事はしないだろうにと、自分の想像した光景に苦笑していると、
  突然、僕の携帯電話がスローバラードを奏ではじめた。

  僕は、少々慌てた。
  スローバラードの着信メロディは、広田京子に渡した携帯電話から掛かってきた時にだけ鳴るように設定していたのだ。
  まさか、何事も指示しないのに、彼女の方から僕に連絡を取るようなことは無いだろうとは思っていたが、
  僕の中にある、彼女に対してのほのかな期待が、そうさせていた。

  「ハイ、田中です。」電話をとった。
  「あの、広田です。」
  「どうしたんですか、広田さん?」
  「あの、こちらの電話で掛けてしまって、すみません。」

  少し話しにくそうな様子だった。

  「あぁ、その事なら、構わないですよ。その携帯、使って頂いて…」
  「今、お話、よろしいですか?」
  「あ、大丈夫ですよ。何か?」
  「あの…」

  言葉に詰まっている。

  「広田さん、今、どこからなんですか?」
  「自宅です。私の部屋から掛けています。」
  「一人ですか?」
  「え?」
  「警察の人が周りにいるんじゃないでしょうね。」

  しばらくの間があって広田京子は、僕の言葉の意味を理解したようだった。

  「一人です。そういった事ではないんです。実は、その…」

  妙に深刻な様子だ。僕は、なぜ彼女の方から連絡をとってきたのか、その理由を図りかねていた。

  「あの…田中さんに、相談があって…」
  「相談…ですか?」

  まだ、彼女からの電話に対する僕の不信感は消えていない。

  「昨日の、その…下着の事なのですが…」
  「ハァ…」

  なんだか、間の抜けた返事をしてしまった。

  「あの…、実は…」

  さっきの、間の抜けた返事をごまかすように、僕は、ちょっと強めの口調で、広田京子に尋ねてみた。

  「今も、きちんと身に着けてますか?」
  「…ハイ、身に着けているんですが…その事で…」
  「どうしたんですか、広田さん!」

  不信感は、彼女に対する心配の感情に変わりつつあった。

  「二週間、猶予を下さい。」

  彼女は、意を決したようにキッパリと言った。

  「え、どういうことですか?」
  「あの…今週と来週は、下着の事…許して下さい…二週間したら、毎日、身に着けますから…」

  彼女の言っている事が、よく理解できなかった。
  僕が返事に困っていると、彼女は続けた。

  「私…多分…今週くらいから…その…体調の方が…」
  「あ」
  「…解って頂けましたか…」

  やっと、彼女の言いたい事が理解できたものの、僕は返事に困ったままだった。

  「…いつ頃からなんですか?」と、つい、そんな質問が、口から出た。
  「多分、水曜か木曜日くらいからだと思います。」

  僕は、少しだけ考えて、彼女にこう言った。

  「広田さんの希望については、考えておきます。ただ、明日、月曜日は、まだ、今日のまま、その下着を着けておいて下さい。」

  彼女の返事はなかった。

  「広田さん、いいですね!」と、念を押した。
  「ハイ…わかりました…。でも、本当に、考えてください…お願いします。」

  彼女の哀願に返事をせずに、僕の方から電話を切った。

  明日の月曜日、警察署の中で、婦人警官の制服を着たままの広田京子を、いかにして抱く事ができるのか、
  その方法を考えねばならなくなっていた。


 18. 侵入

  月曜日の昼休み、広田京子に電話をした。
  話をしなくてはならなかったので、一人になれる場所からふたたび連絡を取らせた。
  携帯電話が、スローバラードを奏でる。

  「広田ですが…」
  「広田さん、今日のあなたの取り締まりの予定を教えて下さい。」
  「え、これからの予定ですか?それを聞いてどうするんです?」
  「広田さん、答だけを聞かせてください。今日、これからの予定です。」
  「…警察署近辺を巡回します。駐車違反車輌の取締りです。」
  「わかりました。これから僕の言う事をよく聞いてください。」

  広田京子と警察署内で二人だけになる。そのための行動を彼女に指示した。

  16時過ぎ、会社を早退した僕は、中央通りの駐車違反場所に車を停めた。
  一時間程して車に戻ると、広田京子に指示したとおり、ミラーにオレンジ色の札が下がっていた。
  僕は車に乗り込み、警察署に向かった。

  エレベータで4階の交通課に上がって、男性警察官相手に駐車禁止の事務手続きを済ませる。
  もう18時に近くなっていて、交通課の中に、婦人警官の姿は無かった。
  手続きを済ませ、交通課を出て、その階の手洗いに向かう振りをして、西側の階段から、5階へと上がった。

  5階に、広田京子が制帽を手にして、待っていた。

  警察署の5階は、会議室が三部屋、そして、道場を兼ねた講堂があるらしい。
  広田京子は、小会議室と書かれた部屋のドアを開けた。
  部屋の中は、十人ほどの人間が会議ができるよう、大きめの机と十脚の椅子があり、
  全面スキャナーによるコピー機能の付いたホワイトボードが窓側に置かれていた。

  窓から、外を見ると薄暮の空が美しかった。
  地平線近くに、夕焼けの名残のオレンジ色が少しだけ見えており、
  そこから上空に向かって紫色へのグラデーションが拡がっている。

  僕は、広田京子に言った。

  「電話で話したもの、持ってますか?」

  広田京子は、上着の右ポケットに手を入れた。

  「ここにあります。」彼女は落ち着いて、僕の顔を見ている。
  「一昨日、買い物に行った時の田中さんの質問、憶えてますか?」
  「え」
  「二人で歩いている時に、どんな会話をしたらいいのだろうって…」
  「あぁ…、それが、何か?」

  広田京子は、ポケットから、手錠を取り出して、僕に渡した。

  「田中さんから掛かってくる電話…」

  手錠を受け取った僕は、広田京子を引き寄せ、軽く口づけした。

  「…着信音の…」

  もう一度、ゆっくりと、今度は強めにキスをした。

  「…スローバラード…」

  僕は広田京子に制帽を被せて、その身体を、机の上に横たえさせた。

  「…私も、…あの曲が好きです。」

  僕は、彼女の右手首に手錠を掛けた。

  「…広田さんも、あの曲が…?」

  手錠を机の脚に通してから、彼女の左手首を握りしめた。

  「私が高校二年の…秋でした…」

  彼女の左手に手錠を掛けた音がカチリ、と小さく響いた。

  「部活の先輩が、あの曲が大好きだという話を聞いて…」

  広田京子が話す言葉の合間に短い口づけを繰り返しながら、僕は、制服の上から彼女の胸を手の平で包んだ。

  「私、その日の放課後、CD屋さんに走って行って…
   もらったばかりのお小遣いで…」

  中指の先が冷やりとした。婦人警官の階級章に触れていた。

  「買いに行ったのですね…、いい曲ですものね。」

  僕は、彼女に答えながら、右手を胸から、ゆっくりと太腿の方に移していった。

  「私が、初めて買ったCDだったんです…高校二年…遅いでしょう…」

  制服のスカートの裾に手が届いた。

  「それで…私…嬉しくなって、その曲の事…」

  スカートをゆっくりと捲くり上げながら、ストッキング越しに太腿を撫で始める。

  「先輩に、その夜、電話して…、また、次の日も電話して…」

  彼女の声が、涙で潤んでいるようだった。

  「一週間、毎日電話して…嫌われてしまったんです…」

  僕の右手は彼女の股間に達していた。
  先日、贈った下着のレースの部分の感触を親指に感じた。
  左手では、制服のボタンを外し始めていた。
  右手をスカートの奥から出して、ホックの部分を外し、彼女の腹からストッキングの下へと掌を侵入させた。
  彼女の体温が、掌から僕の身体全体に拡がっていく。

  「…高校二年の、その頃の事を…思い出しました…田中さんと会っていると…」

  右手は下着の中に進み、彼女の陰毛の向こう側に中指の先が届いた。
  濡れていなかった。

  「田中さん…こういう愛し方しか…できないのですか…」

  涙声の広田京子の訴えを聞いたとき、僕の手の動きは止まってしまった。


 19. 破綻

  警察署の会議室の机の上で、ふたりの時間は暫く止まったままだった。

  「広田さん…僕を、あまり困らせないで下さい。」

  やっと、僕は、言葉を発する事が出来た。
  窓の外の空は、既に暗く、街には明かりが灯っている。
  広田京子は会議室の闇の中で、ポツリと、こう言った。

  「お願いですから手錠を外してください…と泣いて抵抗しながら言った方が…いいのですか?」
  「すみません、僕は、こういう愛し方しか出来ません。」
  「私は…」

  会話を打ち切るように、僕は自分の口を強く彼女の唇に押し当てた。
  彼女の頬に左手を当てると、涙で濡れているのがわかった。

  僕は、彼女のネクタイを緩め、さらにシャツのボタンを、襟元の一つを残して外した。
  首筋に数回キスをして、彼女に言った。

  「手錠をしたまま、うつ伏せになってください。」

  彼女は、もう何も言わずに、黙って僕の言う事に従った。
  僕は、うつ伏せになった彼女の体の下にもぐり込んだ。

  「腰を上げて、僕を跨いで、膝で体を支えるように出来ますか?」

  そう言って、彼女が僕の上に重なるようにした。
  広田京子の二つの眼が、僕を上から見ている。

  「キスを…広田さんから…僕に、キスをして下さい。」

  ポトリ、涙が一粒、僕の頬に落ちた。

  「私は…私は、普通に…」

  彼女の頭が僕の胸の上に乗ってきた。
  それ以上の言葉を、彼女の口から僕は聞きたくなかった。

  「もう、何も言わなくてもいいです。」

  僕は、首を起こして、広田京子の唇に軽いキスをした。
  そして、彼女の体の下から抜け、彼女の姿勢を仰向けに戻して、尋ねた。

  「手錠のカギは、どこですか?」
  「…上着の…右側のポケットに、あります。」

  広田京子は、顔を窓の方に向け、夜の街の灯を見つめながら、僕の顔を見ずに答えた。
  僕が、言われたポケットを探っていると、突然、会議室のドアが開き、男の声がした。

  「オイ、誰かいるのか?」

  次の瞬間、会議室は蛍光灯の明かりで満たされた。

  会議室の入口に男性警察官が立っていた。
  その警察官は茫然と僕らを見ていた。
  彼は、さっき、僕の駐車違反の事務処理を行った警察官だった。
  三人は、ほんの数秒間、何をすべきなのか、それぞれ、迷っていた。
  男性の警察官が、一番に口を開いた。

  「お前、さっきの駐禁の!」

  僕は、とっさに、警察官に体当たりした。
  広田京子を会議室に残したまま、僕らは廊下に倒れこんだ。

  「うちの婦警に何をしたんだ!」

  警察官が大声を出した。

  「違います!」広田京子が叫ぶ。

  僕は、胸ぐらを掴まれ、上体を起こされた。

  「駐禁の逆恨みかよ!」

  男性警察官の怒りの形相が目に入った。
  カシャッ、と金属的な音がどこかで響いた。
  警棒を振り下ろす男性警察官の姿と、広田京子の「やめて!」という声が脳裡に残った。

  晴れた日の街角。中央通りのプロムナードをブレザーの制服を着た女子高校生が、可愛らしいデザインの財布を握りしめて、
  ウキウキとした表情で駆け抜けていく。
  浮遊感のある曖昧な場所から、その光景を眼にしている僕は、なぜだか、とても幸せな気分になっていた。


 20. 沈黙

  目が覚めたのは、ソファの上だった。
  すぐそばに、見知らぬ男性警察官が、僕を見張るように折りたたみ椅子に腰掛けていた。
  首の後ろ側がズキズキと痛む。
  目を覚ました僕の様子に気がついた警察官は、部屋の奥に向かって、

  「高品さん、こいつ、目ぇ、覚ましたみたいですよ。」と声を掛けた。

  部屋の奥から、初老の私服を着た男が「おぅ!」と立ち上がって返事をした。
  数回訪れた、交通課の部屋と、雰囲気が全く違っていた。
  高品と呼ばれた刑事らしき男は、僕のほうに近付いて、関西訛りで話し掛けてきた。

  「君なぁ、交通課の話が本当なら、随分とまずいコトだわなぁ…。
   ココで、名前や住所やら聞かなならんのだけど、ほんのさっき、駐禁で捕まってたらしいねぇ。
   名前も、住所も、解っとるんだけど、手続き上、一応、聞かんとイカンのかなぁ。」

  そして、若い警察官を振り返って言った。

  「法律上、そこんトコ、どやネン!交通課の書類で逮捕状請求、いけるんかい?
   交通課の婦警の被害届待ちかい?本人確認、任意でとらなアカンか?」

  そうして、僕のほうを振り返って、にっこり笑った。

  …あぁ、逮捕か、そうだろうなぁ、それだけの事、やったよなぁ…。
  自分の事はどうでもよかった。僕は、広田京子の心を傷つけた罪を償わなくてはならない。
  これからの取調べには、ただ、沈黙で応じよう。
  そう思った。
  僕の口から、刑事たちに、広田京子との事を一言でも話すのはやめよう、と心に誓った。

  窓際の机で、電話で何かを話していた警察官が高品を呼んだ。
  高品は、歩く事さえしんどそうな様子で、その警察官の所へ行って、何事かを耳打ちされていた。
  警察官の話を聞きながら、時々僕のほうを見ては、顔をしかめている。
  高品は自分の後頭部を手で撫でて、彼に耳打ちをしていた警察官を僕の方へ押し出すようなそぶりを見せた。
  警察官が僕の所にやって来た。

  「田中…いや…田中さん、この度は、ご迷惑をお掛けしました。…と、いいますか、その…」

  なんだか、煮え切らない言い方の警察官の後ろから、高品が怒鳴るように言った。

  「アホか!はっきり、言ってやりや!あんたがウチの婦警と付き合おうがこっちの知った事や無い!
   彼女と制服でやりたかったんやろうが、持ち出し厳禁は規則や!警察署はイメクラやないぞ!
   交通課の警官があんたを殴ってしもうたんは、状況からいって不可抗力やから、変な気、起こさんどきや!
   明日にでも、ウチの署長が丁重にご挨拶するわ!今度やったら、建造物侵入でホンマに逮捕やぞ!」

  僕は、刑事課から解放された。
  夜の10時前だった。
  携帯電話を取り出して、広田京子に掛けようとしたが、その勇気が出なかった。
  以来、彼女に電話はしていない。


 21. 手紙

  それから、色々な事があった。

  携帯電話に、警察署長から丁寧なお詫びの電話がかかってきて、驚いた。
  ―とは言ったものの、署長の言葉も、あの夜の高品の最後の台詞を美辞麗句で飾っただけのような物で、
  警棒で殴られた僕が、警察を告訴する事を恐れているような印象だった。

  僕は、あの夜、地魚料理店の席を二名分予約していた。
  例の件で、僕は当然、店に姿を現わす事が出来ず、無断でキャンセルした形になってしまった。
  その事を会社の同僚が、店の女将から聞いたようで、無作法を諭されつつ、
  目を付けていた女にでも振られたな、と冷やかされた。
  彼は気のいいヤツで、僕の親友だ。

  スローバラードの入ったCDはなかなか見つからない。
  スローバラードはアナログ盤しか持っていない。
  注文すれば手に入るのだろうが、自分の足で探して、見つけたかった。
  僕には、ちょっと頑固な所がある。

  中央通りの駐車違反車輌の多さは、相変わらずだ。
  ある日、広田京子の後輩の婦警を見かけた。
  彼女は、別の婦警と駐車違反の取締りを行っていた。

  広田京子に預けた携帯電話を、僕はいまだに解約しきれないでいる。
  理由は僕自身にもわからない。
  毎月毎月、僕の口座から基本料金だけが引き落とされる。
  僕の電話は、スローバラードを奏でなくなった。

  実は、手元に一通の手紙がある。
  あの日から、半年ほど経って、僕の所に届いた。
  消印は、北陸のちょっと大きめの地方都市で、僕も一度、観光に行きたいと思っている街だ。
  封筒の裏には、見覚えのある字で「広田京子」とだけ署名がしてある。
  手紙は、きちんと「拝啓」そして、季節の挨拶から始まっている。
  少しだけ紹介しよう。


   「その後、いかがお過ごしでしょうか。
    私は、勤めていた県警を辞め、今、母親の実家のある街に、就職口を見つけ、一人暮らしをしております。
    民間の会社の支店で、もしかすると、田中さんも名前だけは聞いたことのある企業かもしれません。

    田中さんとの出会いは、私にとって何であったのか、結論を出せずにおります。
    恐れおののいていたのは事実ですが、あの時、お話したように、
    失礼ながら、昔の自分の不器用さと印象を重ねてしまった部分を感じていたのも、また事実です。
    人を愛するとはどういう事なのか、
    そしてまた、その人にしか出来ない特別の愛し方、そういったものがあるのではないかと、考えはじめました。

    思い上がりと言われる事を恐れずに書きますと、もしも、あの時の出来事が、
    田中さんの私に対する愛情の表現だとしたならば、
    残念ながら、今の私は、そして、これからも、田中さんのお気持ちに、応える事はできないでしょう。
    また、一人の人間が人を愛するやり方も、たった一つではないのでは、とも考えております。
    愛情を注ぎたくなる相手によって、愛情の表現方法も変わってくるのではないでしょうか?
    相手の事を思いやり、相手の喜びを引き出せるような愛し方、そういったものが、
    人それぞれに、必ず存在すると私は信じています。

    田中さんにも、そのような形で愛情を注がれるお相手の方が現れると思っています。
    ―もしかすると、もういらっしゃるのかもしれませんね。

    田中さんにとっては、凡庸かもしれないような事ばかりを長々と書き連ねてしまいました。
    季節の変わり目、御身体、くれぐれもご自愛ください。」


  彼女は、警察官を辞めても、僕にとっての理想の婦人警官だった。


  ときどき、僕は、夢を見る。

  春。スローバラードが遠くから聴こえる。
  菜の花畑の中に立った広田京子が笑顔でこちらに向かって大きく手を振っている。
  眩しすぎるその映像は、なぜかスローモーションだ。
  彼女は、真っ白な、ノースリーブのワンピースを身に着けている。
  婦人警官の制服は、着ていない。


  -おわり-

 2001.03.19初稿  2002.06.26 サイト掲載にあたり加筆訂正


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