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クリスマスが近づいたある日の夜、若宮三丁目交番に四人の婦警が揃っていた。明日は、この地区にある小学校の一年生たちが「婦警さんのお仕事」を見学に来るのだ。本来は交番勤務のシフトではない二人もその準備の手伝いに駆けつけていた。
児童の人数分、クリスマスプレゼントを作らなくてはならなかった。
県警のマスコットをあしらったシール、靴やランドセルに貼る反射シート、交通安全の注意が書かれた印刷物などの警察ノベルティ一式に、今回は特別に四人で買ったノートとお菓子を加えて、赤と緑のストライプ模様の紙袋に詰め、最後にリボンで飾るのだ。
「う!」
プレゼントの梱包作業をはじめて間もない頃、茜が喉を詰まらせたような声を出した。
「どしたの?」
隣の席の由香が、茜の方を覗き込むようにして訊ねる。
「い・いや…。今、作ったこの包みに、反射シートをちゃんと入れたかどうかが不安になって…」
「あらあらあら…ダメよ、中身が足りない包みを作っちゃ。―子どもって、そんなトコで傷ついたりするんだから」
と、慶子が茜をたしなめる。
「うー、もうテープ貼って留めちゃいましたー」
「もぅ。ちょっと貸しなさい」
情けない表情になった茜の手から、瑞枝が袋を受け取り、小指の爪を使って慎重にテープを剥がしはじめた。跡を残さずにテープを取った瑞枝は、開けた袋の口から中を覗いて、茜に言った。
「ちゃんと入ってるじゃない…」
「てへへへ、そうでしたか。ありがとうございます。ちゃんと入れてたかー、さすが私」
コツンと瑞枝の拳が茜の頭上に落ちた。
「こらこら!開き直ってる場合じゃないでしょ。―でも、こういうの茜は苦手っぽいわねー」
「そうなんですよー。私、繊細さに欠けるっていうか…って、なに言わせるんですか!」
瑞枝と茜のやり取りに慶子が冷静な表情で口を挟む。
「ハイハイ。漫才はいいから手を動かす!」
そこで、由香が三人を見渡しながらこう言った。
「間違いのないように、分業にしましょうか。慶子さんはシールとステッカーと安全のしおりをまとめて、瑞枝はノートとお菓子担当。私がそれを確認して袋に入れて、茜がリボンを付けて仕上げる。どうですか?」
「由香さん、ナイス・アイディア!それなら私、間違えません!」
「―そうね。そうした方が、間違いもない上に効率もよさそうね」
慶子も由香の提案に頷いた。
交番には四人の婦警が揃っているというのに、何かが足りない気がするのは、ミーシャがいないせいだ。
つい先日、迷い猫の新聞記事が出てすぐに、ミーシャの飼い主が名乗り出た。呆気ないほど簡単に…。そして、ダンボールで作った「ミーシャの場所」は若宮三丁目交番から無くなった。
交番での彼女たちの日常勤務では、仕事中や休憩中に話題が途切れると、自然と例の幻視の話になる事が、今でも時折ある。だが「アレは一体なんだったんだろうね」という結論のない結論に落ち着く。
皆、幻の中で起こった出来事の細かい部分は次第に忘却しつつある。
―そもそも夢の記憶などというのは、そういうものなのだ。
分担作業にチェンジしてから30分も経たぬうちにプレゼントの半分近くが完成した。慣れてきたのか、茜がリボンを飾りながら「おもちゃのチャチャチャ」のメロディをハミングしはじめる。
「♪ルルルル・チャチャチャ・ルルルル・チャチャチャ…」
それに釣られるように、慶子、瑞枝、そして由香も、プレゼントを作りながら、茜にあわせて歌いだす。
若宮三丁目交番の上に拡がる夜空は、12月の寒気に澄みわたり、冬の星座が瞬いている。
♪〜
空に キラキラ お星さま
みんな スヤスヤ 眠る頃
おもちゃは 箱を 飛び出して
踊る おもちゃの
チャ・チャ・チャ
満天の星空に、四人の女性が奏でる歌声が優しく響く。
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