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「てめぇの乳は何カップか言ってみろ!」
少年は、制服の内側に差し入れた掌で鷲掴みにした由香の柔らかな乳房に、五本の指を深々と突き立てた。そして、もう一方の手で由香の耳を摘むと、強く引っ張り、そこに口元を近づけて大声で怒鳴った。
「きこえませんかぁ?おーとーしてくださぁい。本部・本部・おーとーしてくださぁい」
坊主頭の後ろにいる少年たちがどっと笑う。
由香は耳を持たれたまま、頭を前後左右に何度も大きく揺すられた。激しい暴力に抗う術はなかったが、唇を噛みしめて悲鳴を上げないよう必死に耐えた。耐えながら、涙が出ないように堪えられるのかが不安になった。ここで泣いてしまえば、さらに少年たちにつけ込む隙を与えてしまうだろう。泣くまいと強く思うと、それだけで、却って涙が溢れそうになった。声を上げまいと固く唇を閉ざしたのも、声を出せば、それが泣き声になってしまうと恐れていたからかもしれない。
「だんまりかぁ?―え?おい!」
坊主頭が由香の顔を覗き込んで言った。そして、唇の端だけを動かして笑った。
「じゃぁ、俺たちが調べてやる」
胸を掴んでいた少年の手がワイシャツの袷に移動した。その途端に由香の上半身が揺れた。
ブツッ!
シャツのボタンがひとつ弾ける小さな音がした。
「お前ら見てねぇで手伝えよ」
坊主頭が後ろに控える少年たちに声を掛ける。「おぉ」「あぁ」と返事をしながら中学生の群れが由香に近づき、壁を背にした彼女を取り囲む。何本もの手が由香に向かって伸び、彼女の上半身を壁に押さえつけた。
チキチキチキチキ…という音が聞こえてきた。
坊主頭がカッターナイフを手にして、その刃をゆっくりと伸ばしていた。
別の少年の手の中で、マイナスドライバが、クルリと一周、器用に回転した。そのドライバの先端が由香の眼球の前に突きつけられた。
「目ン玉、抉られたくなかったら、動くなよ」
平らな金属の先端部分で由香の瞼の上をヒタヒタと軽く叩きながら、ドライバの少年が言った。
その冷たい感触に思わず由香は叫んだ。
「や・やめて!―C…Cカップだから!ら・乱暴はしないで!」
叫び声は、まだ泣き声にはなっていなかった。
その言葉を聞いた坊主頭が、制服の上着とベストのボタンを片手で器用に外しながら、もう一方の手に持ったカッターナイフの刃で静かに由香の頬を叩いた。
「婦警さん、最初から素直にそう言ってくれればよかったんだけどさ…」
刃先は、由香の頬からボタンがひとつ外れたシャツの袷に移動した。
「今さら遅いんだよ!このクズ!」
少年の罵声と同時にカッターナイフがシャツのボタンの付け根の糸に喰い込んだ。ブツ・ブツ・ブツッと、カッターの刃がボタンの付け根をひとつずつ上から順番に裂く音を聞きながら由香は後悔する。
その後悔は、乱暴な行為を受ける前に、素直に少年の命令に従っていればよかった、という後悔ではない。
―今まで、処女を守りつづけた後悔だった。
100パーセントの恋愛が由香の理想だった。
―100パーセントの恋愛というのは、50パーセントの恋愛でもなく、65パーセントでも85パーセントの恋愛でもなく「100パーセントの恋愛」という漠然としたニュアンスで由香の心の中に、いつの頃からか、ずっとあった。25歳の今に至るまで、異性に抱かれるチャンスが全くなかったわけではない。ただ、その理想の恋愛を思い描くと、異性との交際に深く踏み込めなかった。
処女である事を重荷と感じる時もあったが、当然、処女を誰かに与える事も同時に重かった。
「だから…だから、君の理想を思ってくれ」
また一瞬、早坂の声が聴こえた。
驚いた事に、その声は正面にいる少年の…いや、少年であった者の口から漏れていた。廃墟は、いつの間にか平坦なグレイ単色の世界に変わっていた。
―それは文字通り「単色の世界」で、早坂が現れる前の「白色の世界」が明るさを失っただけの、まさしく一面がフラットな灰色の世界だった。由香を押さえつけていた少年たちの姿もいつの間にか消えていた。
いや、それらは完全に消えたのではない。
劣悪な受信状態のテレビ画面のような光景が由香の目の前に展開していた。
グレイ一面の世界にノイズの如く、―廃墟が、―ラブホテルが、今ここがどこであるべきかを迷うように、浮かんでは消えた。
目の前の人影も、少年の影となり、次の瞬間には早坂に似た影となり、また、何者でもない灰色の影となり、一刻一刻、姿を変えた。
影は苦しんでいた。その苦しみは言葉の雨となって由香に降り注ぐ。
「こんなのじゃ…ないだろう…てめぇは、こうやって…考えるな!自分の不幸を考えるな!あんたの望み通りに…違う、これが君の望みか?」
由香は茫然として苦しみにのたうち叫ぶ灰色の影を見つめるしかなかった。
その影の叫びは、今や、耳に聞こえる声ではない。それは、由香の頭の中に、直接、響き渡っている。
その灰色の影の苦悶の声は、鐘楼の大音響となって、由香の心を撹拌し、そして激しく揺さぶった。
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