婦人官 汚 01   02   03   04   05   06   07   08   09   10   11   12   13   14   15  



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9.

葉子の目の前に黒く光るピストルの銃身が差し出された。
無邪気に笑うメガネの少年の声が聞こえる。

「ふふふ。本物だよね。…あは、当たり前か。」
「返しなさい、それを!今すぐ返しなさい。」

葉子は強い口調で説得を試みたが、それは金髪の短気に油を注ぐだけのようだった。

「そういう口の聞き方するんじゃねぇっつってんだろーが。」

制帽の上に乗った彼の足に力が加わり、葉子の右頬がべっとりと便所の床に密着する。
声をあげようと開いた唇が床の不潔な部分に触れ、酸味と苦味が走る。

―と、突然、拳銃の銃身が、葉子の左肩から下がった携帯無線機を床に押し付けた。

タァァァン!

軽い破裂音が狭い公衆便所の中にこだました。
小さなプラスティックの破片が葉子の頬に当たった。

「!」

火薬の匂いが葉子の鼻を突き、つづいて、むせるようなアンモニアの臭気が漂ってきた。

一瞬止まった蝉の鳴き声が再び天井から降るように響いてくる。

「撃てない…とでも思われるとシャクだからさ。」
「あ、あなた!」

メガネの少年を見ようと葉子は顔を上げようとしたが金髪の少年の靴の重みがそれを阻んでいた。
その靴をリズムを取るように揺すりながら金髪が話しかけてきた。

「さっきは腕が折れるかと思ったぜ。」

葉子の左腕が急に持ち上げられた。

「あ、ぃたっ!」

金髪は葉子の腕に繋がれた手錠の鎖の部分を持ち、葉子の頭を足で押さえたまま、
それを高々と持ち上げていた。


10.

葉子の手首に手錠が深く食い込む。

「あぁ、ぁあああぁ!」

その痛みに思わず悲鳴が上がる。
左手と同時に、手錠に繋がれた右足首も床を離れる。

「俺は、さっき、もっと痛かったんだよ!」

そう言いながら金髪は手錠を持った手を上下に激しく揺すった。

「あ、あ、あ。ぃたい。離して、手を、手を離しなさい。」
「この!まだ命令すんのか!」

金髪はそう叫んで、それまで葉子の頭に乗せていた足を、彼女の背中の中央へ移動させ、
そこを靴で押さえるように強く踏んだ。

「ぅぐ。」

葉子の声が、今度は止まった。
背中の真ん中を強く踏まれたせいで葉子の身体は腹部を支点にするようにして、
左手と右足を上部に向かって大きく反らされるという不自然な格好になっていた。

手錠が食い込んだ左手首だけでなく、頭頂部から爪先まで、全身を縦に痛みが走る感覚がした。

「婦警さん、パンツ丸見え。」

メガネの少年が笑いながら言う声が足元の方から聞こえてきたが、
葉子にはスカートの裾の乱れなど気にする余裕はなかった。

「うぅ…うっ、うっ、うぅ。」

今の彼女は呻き声を上げながら呼吸をする事が精一杯の状態だった。


11.

「なんだ、おぃ、声が止まっちまったなぁ。さっきまでは威勢がよかったのによ。」

得意げに金髪が言って、手錠を離した。
体勢は少しは楽になったものの、既に葉子は肩で息をしている。

「おいおい、ダウンするには早いんじゃねぇか、警察のねぇちゃん。
 昨日の仲間たちのお礼をたっぷりしなくちゃいけねーんだからな。」

そう言うと金髪は葉子の制帽を取り、メガネの少年に投げた。

「リュウちゃん、記念だ。とっときなよ。」

制帽を胸元で受け止めたメガネの少年は、おどけるような表情をしてそれを被った。

「うふふ。これはいいね。本物の婦警さんの帽子なんてどこにも売ってないよ。
 ん?あは、拳銃だって、そうか。あはは。」

―彼らは、やはり未明に補導された少年たちの仲間だったのか。
葉子がそう考えていると、金髪が葉子のショートカットの髪を鷲掴みにして引っ張った。

「ぁあ!」

その突然の行動に、再び葉子の口から声があがる。
葉子の軽い叫びを聞いて金髪が喉の奥で「クク」と笑う。

金髪は葉子の髪を持ち、彼女の身体を一番奥の個室の前まで引きずっていった。

「ぐ。うぅうぅ。」

髪の痛みと左膝が床に擦られる痛みを葉子は必死で堪えていた。

「入れ、オラ!」

金髪は、そう言うと、葉子を放り投げるように頭から個室の中へと投げ込んだ。
和式便器の白い陶製の縁に頬を強くぶつけた彼女は、右半身を下にして、
入口に立つ金髪に眼を向けた。


12.

金髪はゆっくりとしゃがみ込み、便器を挟んで葉子の顔を覗き込んだ。

「なんだ、その眼はよ!そんな眼で俺を見るんじゃねぇよ!」

再び金髪の手が葉子の頭髪を掴んだ。

「糞でも舐めろや!」

彼はそう叫ぶと、葉子の顔面を便器に押し付けた。
便器の縁に付着し、硬く乾燥した茶褐色の排泄物が葉子の唇に当たった。

「ゃ、いやぁ!」

不潔さに悲鳴をあげたが、すぐにその口は便器に密着し塞がれた。

「んー、んんんーんんー!」

声にならない悲鳴が葉子の口から漏れる。
必死で頭を上げようと抵抗を試みるが金髪の腕力は強い。

金髪はゆっくりと葉子の頭を便器の縁に沿うように左右に動かした。

「んーんんんんーん。」
「ハハハハ、ホントに糞舐めちゃったよ、この婦警!きったねーの!」

金髪の嘲笑が、狭い個室に響く。
葉子は口の中に広がった苦味と酸味、そして鼻を貫く悪臭に大きくむせ返った。

「ゲッ!ゲホ!」

胃酸を含んだ苦い唾液がその口元から流れる。

「コラ!その汚ねぇツラをキレイにしろ!」

金髪はそう言って葉子の髪を持ち、再び彼女の頭を引っ張りあげると、
今度は、葉子の顔を便器の中に突っ込んだ。

キィッ。

水洗レバーが押される金属が軋む音がした。
その瞬間、葉子の耳に轟音が聞こえ、彼女の顔は激流に飲まれた。


  -つづく-

 

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