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33.

「ふへ…ふへへへ」

浮浪者の一人が卑しそうな笑い声を漏らした。
ゴクリと、別の浮浪者が生唾を飲む音さえも葉子の耳に聞こえてきた。

―誰もいない、ここには誰もいない…
心の中で、懸命に繰り返しながら、静かに腹部に力を込めた。

キィィンキンキンキィン…

先ず、陶器製の便器に肛門に詰められた銃弾が落ち、金属的な音を響かせた。
そして、次の瞬間、堰を切ったように大量の透明な液体が流れ出し始めた。

「うは…出た出た、ガハハハ。」

浮浪者の笑い声が葉子の耳に届いた。
思わず「見ないで!」と叫びだしそうになった彼女だったが、
歯を食いしばり、必死で、その言葉が出るのを堪えていた。

ピシャピシャと音を立てて便器に叩きつけられていた水分は、
徐々に茶褐色の濁った液体へと変化してきた。

「ぅわっ!くさっ!」

葉子の背後に立っていた金髪がそう叫んで、身を引くように扉の方へと移動した。

「ゲッゲホゲホッ…た、堪んないや、この臭いは…」

メガネの少年が咳き込みながらも笑いを堪えるように言った。

便器に水音を立てて、葉子の肛門から流れ出ていた茶色く濁った液体は、
しだいに粘液状へと変化しつつあった。


34.

排泄物が液体から軟便になるにつれて、便器が立てる音も少しずつ小さくなっていった。
それに代わって、葉子の肛門から便が吐き出される時に立てる濁音が便所の中に響き始めた。

その下品極まりない音は、葉子を屈辱の絶望へと追い込むと同時に、
二人の少年と三人の浮浪者―彼ら五人の野次馬の罵声に火を点けた。

「―ぅわ!下品な音!―サイテー!」
「情けねぇなーぁ!オイ!」
「恥かしくねぇのか、この女…」
「きったねぇなぁ!」
「よくもまぁ、こいつは…」

その言葉の数々に葉子は深く俯いた。
彼女には、自らの意思で体内からの汚物の流出を止めるほどの気力は、既に無くなっていた。

葉子の肛門から、流動状の物体が、ボトボトと、とめどもなく垂れ流されていく。

「―下痢便が止まんねぇなぁ、ねぇちゃん。」
「よぉ、下から見ると、肛門の周りに糞が飛び散ってるぜ。」

浮浪者たちの言葉に混じって、時折、葉子の肛門が鈍く醜い音を響かせる。
その音が響くたびに、浮浪者たちが下劣な笑い声をたてる。

葉子は、排泄姿を見られていることよりも、自分が発するその醜悪な音を聞かれてしまう事に、
いっそう大きな恥を感じていた。
自分の体が出す音を止められないもどかしさで、心の中がいっぱいになっていた。

粘着質の物体の排出が落着いた頃、今度は小さな塊となった固形の便が、
葉子の肛門から吐き出されはじめた。

ポシャ…ポシャポシャ。

それらの固まりは便器に落ちるたびに粘液状の軟便の上で音を立てる。
落下の弾みで跳ね返ったネットリとした汚物の飛沫が、葉子の臀部をさらに汚していった。


35.

長い長い時間が経ったように感じたが、排泄を終えるまでの時間は数分間の出来事だった。

「ぅう…ぅうぅっうっ」

排泄が終わり、葉子の喉の奥からこみ上げてくる泣き声が、
五人の男たちの「くくく」という押し殺した笑い声とともに公衆便所の中に響いている。

彼女は膝を床につけて水洗用の金属パイプに凭れかかるようにして泣いていた。
そんな彼女に、まずメガネの少年が声をかけた。

「ゴメンね、婦警さん。」

その口調は柔らかく、優しさに満ちていた。
彼は葉子に近づき、彼女の頭を撫でるようにその髪の上に、そっと手を置いた。

「僕、婦警さんに謝んなきゃいけない。」

メガネの少年の意外な言葉に、葉子はうつむいていた顔を上げ、
涙で真っ赤になった眼で、少年の瞳を覗き込んだ。

少年は優しい表情で葉子に微笑みかけていた。

「僕、今まで気がつかなかったんだけれど、ホラ…」

そう言って、少年は壁に目線を移した。
葉子はつられるように、メガネの少年の視線の先に目を向けた。

そこには、銀色に光る金属製のトイレットペーパー・ホルダがあった。

「…このトイレ、紙が切れちゃってた。ゴメンよ、気付かなくて…」

少年の唇の端がゆっくりとつり上がっていく。
その冷たい笑い顔には、もう「優しさ」のニュアンスは、一切無くなっていた。


36.

ペーパー・ホルダには白いトイレットペーパーの小さな切れ端が、
今にも千切れ落ちそうに、円筒のボール紙にぶら下がっているだけだった。

「―誰か…」

メガネの少年が、金髪と浮浪者たちを振り返って言った。

「婦警さんの、この汚いお尻をキレイにしてあげないと…」

その言葉を聞いて、葉子は個室の奥の壁に逃げるように張り付いた。

「―ゃ…ぃや。自分で…自分でできる…ティ・ティッシュ、も・持ってる…」

彼女は、出なかった声を必死に絞り出して言った。

「ふふ、人の親切は素直に受けなきゃ、ね。」

先ず、メガネの少年は金髪を見た。

「―オイ、リュウちゃん、冗談無しだぜ。いくらなんでも、そりゃぁ汚すぎるぜ。
 そういうのは、おっさん達に言えよ…」

そう言いながら、金髪は三人の浮浪者たちを見た。
彼らも突然の状況に戸惑っていた。

「ふぅん…」

葉子の傍らにしゃがみ込んでいたメガネの少年がゆっくりと立ち上がった。

「じゃ、おじさんたちに頼もうかな…。で、誰がやる?」

そう言いながら、少年はズボンのポケットから何かを取り出した。
それは、裸のままの数十枚の一万円札だった。

手品師のような鮮やかな手つきで、メガネの少年は、その束の中から、
紙幣を一枚ずつ、器用に、葉子の体の上に舞い落としていく。

「いちまーん・にまーん…」

葉子の乱れた制服の上に五枚目の一万円札が落ちたとき、

「お、俺がやる!ご、五万だな…五万なんだな!」

と、長髪をてらてらと光らせた無精ひげの浮浪者が興奮した声を上げた。


  -つづく-

 

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